ルネサンス期の画家マンテーニャの絵画も厳密な遠近法の技法で構成されています。
「吟遊詩人たちの眺めた中世イタリアの庭」は、シチリア島の州都パレルモに、今も残る中世の寺院 San Giovanni degli Eremiti(サンジョバンニ・デリ・エレミティ)をモデルに、現在では荒廃してしまった回廊の庭が、仮に現代に蘇ったとしたらどんな輝きを発していただろう、といいう設定で構成された空想上のイタリア庭園です。

 中世の庭というタイトルではありますが、実はこの庭はその後のルネサンス期の芸術家たちによって確立された『遠近法』の技法をあちこちに散りばめてできあがっています。イタリア庭園は、園芸の技術だけで完成されたのではないことを、まず第一にお伝えしたかったからです。

 ボックスウッド(つげ)が描く幾何学的なラインをご覧ください。下の図でオレンジの線は実際の人の目に感知される遠近法上のラインです。ところが赤い線(ボックスウッドのライン)は人間の目の錯覚を引き起こすためのウソの遠近法(だまし絵)のラインです。オレンジの線と赤い線とに微妙なズレがあることにご注目ください。人の正常な視覚神経をわざと混乱させて、わずか100平方メートルという狭い敷地につくられたこの庭園を実際以上に広く見せることが可能なのです・・・・・・イタリアの庭はルネサンス期に花開いた数学・医学・絵画・建築学などと密接にかかわりながら完成されていったことがおわかりいただけますでしょうか。